大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)473号 判決 1975年2月19日

控訴人

山本市之助

外三名

控訴人

田原糸

右四名訴訟代理人

松永芳市

外一名

被控訴人

最首房吉

右訴訟代理人

山本忠義

外四名

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人の本訴請求をいずれも棄却する。

三、控訴人らの反訴請求につき、被控訴人は、控訴人らに対し原判決添付物件目録記載一ないし四の土地を明け渡し、かつ、控訴人ら各自に対し昭和四七年二月二五日以降右明渡ずみに至るまで一か月金二〇〇〇円の割合による金員を支払え。

四、控訴人らの反訴請求中その余を棄却する。

五、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

六、本判決第三項につき控訴人らは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文第一、二、五項と同旨、および、「被控訴人は、控訴人らに対し原判決添付物件目録記載一ないし四の土地を明け渡し、かつ、控訴人ら各自に対し反訴状送達の日の翌日以降右明渡ずみに至るまで一か月金二五〇〇円の割合による金員を支払え」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控用棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次に付加訂正するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

被控訴代理人は、

一、被控訴人が本件土地の占有を開始したことによる取得時効期間の起算点はおそくとも昭和一六年一二月末日である。

二、被控訴人の本件土地の占有の態様は次のとおりである。

(一)  被控訴人は昭和一六年一二月末頃本件土地を父謙吉から譲り受け、事後みずから直接右土地を占有してきた。被控訴人は、昭和一六年二月徴用により東京都三鷹市の工場に勤務することとなり、その後昭和二八年まで同市に住所を定め、同年御宿町に住所を移転し、さらに昭和三四年一月同町から千葉県勝浦市に住所を移転し、同四〇年一一月まで同市に住所を定めたことがある。しかし、この間においても、謙吉の生前においては謙吉が、同人の死亡後は同人の妻とめまたは被控訴人の妻千枝が中心となつて、被控訴人の家族が御宿町で生活し、被控訴人も屡々御宿町に帰郷していた。従つて、昭和一六年一二月末頃被控訴人が本件土地を譲り受けたのちは、被控訴人がみずから直接本件土地を占有していたのであり、家族は被控訴人の占有を補助していたにすぎない。

(二)  仮に右の主張が認められないとしても、被控訴人は昭和一六年一二月末頃から昭和二六年一二月一〇日までは謙吉を代理人として、昭和二六年一二月一一日から昭和二八年一月七日頃まではとめを代理人として、昭和三五年一月一五日頃から昭和四〇年一〇月末頃までは千枝を代理人として、本件土地を間接占有し、昭和二八年一月八日頃から昭和三四年一月一五日頃まで、および昭和四〇年一一月一日頃から現在までは、みずから直接本件土地を占有してきたものである。

三、原判決四枚目表五行目の「謙吉が第二次大戦に際し応召するにあたつて」を「原告が第二次大戦に際し徴用に応ずるにあたつて」と訂正する。

と陳述し、

控訴代理人は、

一、被控訴人の父謙吉は、本件土地を控訴人らの先代美明から管理することを委任されていたのであるから、本件土地の所有者でない謙吉が被控訴人に本件土地を贈与する筈がない。当時は民法改正前で、被控訴人は謙吉の家督相続人であつたから、謙吉が死亡すれば、同人の一切の財産は当然に被控訴人に移転するのであり、徴用されて家に居なくなる被控訴人にわざわざ贈与をする必要はない。

二、本件土地の税金は、謙吉が控訴人らの先代美明の代納者として昭和二六年一二月二〇日死亡するまで納付し、謙吉死亡後はとめが本件土地を控訴人家のため管理し、これを他人に賃貸したり、みずから耕作したりしていたものであり、被控訴人は東京あるいは勝浦に居住し、本件土地を占有していなかつた。

三、被控訴人は本件土地が控訴人家の所有であることを知つていたものである。このことは、本件土地の付属地である畑を控訴人家のものとして農地法により国が買収することに協力し、それを国から謙吉が売渡しを受けたことを被控訴人は知つていたからである。

四、被控訴人主張の前記二(二)主張の事実は否認する。

と陳述した。<以下略>

理由

一当事者間に争いない事実

これについては、原判決一二枚目表二行目から同裏六行目までに記載のとおりであるから、これを引用するほか、次のとおり付加する。

本件土地の賃料相当額につき、一か月八、〇〇〇円の限度においては被控訴人はこれを認めるので、この限度においては当事者間に争いがない。

二本件土地等に対する謙吉の占有の経過および状況、謙吉の死亡後被控訴人が本件土地を占有していること、被控訴人主張の各贈与の認められないこと、および被控訴人が昭和一六年以降謙吉の存命中において本件土地を自主占有していたことの認められないこと、についての当裁判所の認定判断は、原判決一二枚目裏七行目から同一六枚目表四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。<中略>

そうすれば、被控訴人が昭和一六年一二月頃謙吉から本件土地の贈与を受けたこと、および被控訴人が同年同月以降本件土地を自主占有したことを理由に一〇年ないし二〇年の時効により本件土地の所有権を取得したことを前提とする被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

三被控訴人が昭和二六年一二月一〇日以降本件土地を自主占有したかについての判断

本件土地が大正元年一二月頃市蔵の所有に属したが、その頃から謙吉が右土地を耕作して占有しだしたことは前記のとおりであり、謙吉のこの占有が市蔵ないし美明から右土地を管理するよう委任を受けたことによるものであることは、<証拠>を総合してこれを認めることができる。そして、謙吉が右土地を市蔵から贈与された事実のないことは前記のとおりである(第一審の証人室橋寛明の証言によつて真正に成立したと認められる甲第八号証の記載は、同証言に徴し、本件土地が謙吉の所有に属することの証拠とすることはできない。)から、他に特段の事情の認められない本件においては、謙吉の本件土地に対する占有は終始自主占有でなかつたものといわなければならない。

被控訴人が昭和二六年一二月一〇日謙吉を相続したことは前記のとおりである。ところで、相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきであるというのが判例の見解である(最高裁判所昭和四六年一一月三〇日第三小法廷判決、民集二五巻八号一四三七頁)。自主占有たるための所有の意思は、占有者の内心の意思によつてきまるのではなく、その占有を取得する原因である事実、すなわち、権原の客観的性質によつてきめるべきである。被相続人の占有の権原の性質上客観的にみて所有の意思が認められない以上、その相続人の占有についても一般に所有の意思がないものといわなければならず、このような占有を自主占有に転換させるためには、民法一八五条の要件を具備することが必要である。右判例はこのことを判示したものと解すべきである。

そこで、被控訴人がこのような要件を具備するに至つたかについて検討する。

謙吉の本件土地の占有が山本市蔵らから管理を委任されたことに基づいたものである事実を認定したところに掲げた証拠を総合すれば、被控訴人は、前記相続により本件土地を占有しはじめたのちも、本件土地の所有者である控訴人らが東京におることを知つており、本件土地の公租公課を山本市蔵の納税代理人として納付し、本件土地の登記簿上の所有名義人が山本市蔵であることを知つていたものであり、その占有中山本市蔵、山本美明ないしは控訴人らに対しみずから所有の意思あることを表示したことのないことが認められる。<反訴排斥、略>

そして、被控訴人が右相続の際新権原によつて本件土地の占有をはじめたことについてはなんらの主張も立証もない。

そうすれば、被控訴人の本件土地の占有が自主占有に転換したものとはいえないのであるから、被控訴人が昭和二六年一二月一〇日以後自主占有をしたことを前提とする被控訴人の請求も、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。

従つて、被控訴人の本訴請求はすべてこれを棄却すべきである。

四次に控訴人らの反訴請求について判断する。

本件土地が大正元年一二月頃山本市蔵の所有に属していたこと、同人の財産が美明等を経て相続により現在控訴人ら四名の共有に属していることは前記一に記載のとおりであり、他に特段の事情の認められない本件においては、控訴人らの本件土地に対する持分は各四分の一宛であると認めるのが相当である。そして、謙吉は本件土地を市蔵から管理を委任されて占有していたものであること、および被控訴人が謙吉を相続したことは前記のとおりである。

ところで、控訴人らは被控訴人に対し、本件第一審の昭和四七年二月二四日午後一時の口頭弁論期日において右管理委任契約を解除する意思表示をしたものであることは、本件記録上明らかである(控訴人らが主張する反訴状の被控訴人に対する送達をもつて右解除をしたとの主張については、反訴状の記載内容からして右解除の意思表示をしたものと認めることはできない。)。そうすれば、特段の事情の認められない本件においては、右解除の意思表示により右管理の委任契約は失効し、被控訴人は控訴人らに対し右土地を明け渡すべきである。

本件土地の賃料相当の損害金額については、一金月金八、〇〇〇円の限度において当事者間に争いなく、これをこえる部分については認むべき証拠はない。

従つて、控訴人らの被控訴人に対する反訴請求については、被控訴人が控訴人らに対し本件土地を明け渡し、かつ、被控訴人が控訴人ら各自に対し昭和四七年二月二五日以降明渡ずみに至るまで一か月各金二、〇〇〇円の割合の賃料相当損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却すべきである。

五よつて、以上と異なる第一審判決は不当であるから、これを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 鈴木重信 小田原満知子)

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